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AI失業について考察する(2025年)

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2025年6月4日

概要

GPT-3.5が登場してからの生成AI界隈の発展と社会の変化について考察します。その中で将来どのようにありたいかを考えていきます。

2025年5月時点までのAIの動向

2022年11月30日のGPT-3.5の登場から2025年5月までの動向を駆け足気味に振り返ります。

GPT-3.5の登場

生成AIそのものの歴史はGPTモデルを起点とすると2018年からになりますが、世間に大きな影響を与えたという意味では2022年11月30日にLaunchしたGPT-3.5から、生成AIが日常に少しずつ溶け込みはじめたかと思います。生成AIを使うと文章を要約したり詳しく書いたり翻訳などしたりなど多様なタスクに対応できます。さまざまなタスクを高い精度でこなせるようにプロンプトを工夫するプロンプトエンジニアリングが発展しました。このプロンプトエンジニアリングには対話を通じて特定の判断をさせたり、行動の計画を立てたりすることができるものも含まれます。その中でもReActと呼ばれる手法があり、目的の達成に向けて思考やタスクの過程をつくり、目的の達成まで自律的に生成AIを動かし続ける仕組みとしてAutoGPTが2023年4月12日に誕生しました。2023年3月にGPT-4が発表され、APIでもGPT-3.5などを扱えるようになりました。その経緯からAPIとプロンプトエンジニアリングの組み合わせで目的を達成するまで自律的にGPTを動かし続ける試み短期間で公開され、当時は注目されていました。しかし、GPT-3.5が現在ほど賢くないので複雑で困難度が高い目的となると堂々巡りしていつまで経っても処理が終わらないなどの問題がありました。また、何よりも現在よりも賢くないモデルでこのような問題がある中で価格の高さ(1000トークンあたりの入力で0.002ドル、出力で0.002ドル)だったので実用的とまでは言えないものでした。2025年の6月時点ではGPT-4.1と呼ばれるモデルがでておりGPT-3.5と比べものにはならないぐらいに賢く速いモデルですが入力は100万トークンあたりで2ドル、出力が8ドルとなっています。GPT-4.1 miniであれば100万トークンあたりで0.4ドル、出力は1.6ドルなので、あまり賢くないモデルを湯水のように使い問題が解決できなかったという状態です。

LangChainの台頭

LangChainの初版は2022年10月ですが、Googleのトレンドをみるとアメリカでは2023年4月16日、日本では2023年4月23日に突如として人気が急騰します。不完全であるにしてもAutoGPTで生成AIを自律的に目的の達成まで動かし続ける野心的な発想に影響を受けた方も多く、類似のものを作る目的でLangChainのようなフレームワークが求められたのかと想像はしています。当時のAutoGPTにはLangChainが使われていなかったようなのですが、LangChainを使って同様のものを作るオープンソースのプロジェクト等が数多く立ち上がったようです。同時に、TODOアプリのバックエンドにGPT-3.5を使って自動でタスクやサブタスクを作る機能を持つAIアプリなど誕生し始めるきっかけになっていると思います。モデルが賢くはなかったり、料金の問題もあったりで誰でもAIアプリの恩恵を受けられる状態ではなかったですがLangChainの発展の礎になっています。

新モデルの登場とAPI価格の値下げ

2023年後半にはOpenAIやGoogle(Bard)、Anthropic、Cohereなど競合からの新モデルが登場しモデルもどんどん賢くなっていきます。ただ、賢くなるだけではなく価格もやすくなりGPT3.5よりも賢いのにもかかわらず安価なモデルも当たり前のようにでてきます。また、モデルが賢くなることによりJSON形式のように構造化された状態でデータを取り出すような手法も発展をしていきモデルの性能の向上と低価格化をきっかけにRAGシステムやAIエージェントの構築、チャットボットによるQA・お問い合わせシステムなどが少しずつ発展するようになりました。新しいモデルの登場は2025年においても続いていますが、だんだんとそのサイクルも早くなり競争が活発になりトレンドの移り変わりも非常に速いです。とくに2025年1月に登場したDeepSeek R1は塾考のプロセスを通じて米国のモデルと同等の高精度な回答をするのにもかかわらず非常に安価なモデルとして注目され、加えてモデルの構築方法も公開されたので競争をさらに激化させる要因になったと思います。

コーディングエージェントなどの登場

コーディングエージェントはさまざまな形式で存在しますが、「Cursor」、「GitHubCopilot」、「Cline」、「Claude Code」など数が増えてきています。RAGの埋め込み技術を応用しつつプロジェクト内のドキュメントを読み込み、ユーザーの要求に応じてプログラムの設計・コーディング・修正を自律的にコンテキストを理解しながら行い、開発プロセスを広く自動化されてきています。小規模なコードなら問題なく動くのですが大規模になるとうまく整合性が取れなかったり、セキュリティの問題が生じたり、非効率なコードが書かれたりすることもあります。コード自体ではなく人間がAIの速度に追いつけずコードの全体の理解ができず修正をするような事例もあるようです。問題もありますが人間がコードを考えて時間をかけて書いては直すような作業の大部分が自動化できるようになりつつあり、人間が自然言語で指示をするのみでコーディングをするVibe Codingと呼ばれる手法が2025年2月ごろから提唱されています。コードに一切手を出さずにプロンプトやモデルの修正のみでプログラムを書く方もいらっしゃるようでソフトウェアのコーディングのための専門知識がなくてもとりあえずはコードを書いてプログラムを仕上げることはできるようになってきています。

またこうしたファイルの読み取りをするのには生成AIが使用するための道具などが定義されており、2025年より前はFunction Callingなどの形で自前で定義した処理を道具として持たせる手法が取られていました。2025年初頭にはMCPと呼ばれるプロトコルにより道具を規格を通じて提供できるようになり、サーバーを介して道具を共有したり個人用にMCPサーバーを持ったりなどできるようになりました。生成AIは文字を作るのみであったのですが、プログラミングやMCPを組み合わせることにより道具を使って実際のファイルやGoogle DriveやGitHubの外部のツールを参照したり操作したりすらも自動化ができ、その一連の流れもAIが判断して勝手にやってくれます。開発のことは開発者がわかっているので高度にエージェントAI化が進んできていると思います。開発以外についても専門知識が不要で形式知として存在しているプロセスであればエージェント化させることが容易(たとえばDeepResearchがGoogleやPerplexity, OpenAI, Grok, そのほかオープンソースのプロジェクトからでていますがResearcherの代替として機能しており普及しています)なので、公に理解されている簡単なプロセスならばAIに置き換えができる環境となっています。

社会への影響

今までにAIブームは何度か訪れてはいたのですが一過性のものでした。今回のブームはChatGPTの登場以前にGoogleの深層学習による画像認識の精度の向上の流れがずっと続いており、GPTモデルの登場から生成AIの普及とブームは去っていません。それどころか仕事のあり方を大きく変えるほどにAIが発展しています。過去にも産業革命やパソコンの普及、インターネットの登場など大きな出来事がありましたが、今回のAIブームはパラダイムシフトとして生活や常識を変えるほどの変化が起こりそのまま定着すると考えています。

いわゆるAppleを除いたGAFAM周辺で2025年から組織のフラット化やレイオフが業績が良い状態であるにもかかわらず積極的に行われています。Microsoft社ではPrincipal SDEと呼ばれるコミュニティや業界に対して絶大な影響力を誇る技術者やその上位の職位であるDirector、そしてPM系職種の方々など7000人がレイオフとなっています。GoogleではDirectorよりも上位の職位であるVice President(VP)も対象となっております。そのほか新卒の採用比率が減少し仕事に就くにあたっての入り口も狭まってきています。ホワイトカラーの職種でかつ下位の職位に影響がでやすいように見えますが、職務の内容によっては上位の職位に対してもAIによる労働の置き換えの影響が生じているようです。完全に定型的な手順であればプログラミングのみでも自動化ができますが、少し判断が伴うような提携業務は機械学習や深層学習で作ったモデルが必要なのでそこの開発コストが割に合わない場合にはホワイトカラーの労働者が手作業で処理を行います。世界的なテック企業であってもローカライズが追いつかず人海戦術でこのような提携業務を担うような話もしばしば聞きます。そのような箇所を新卒などのエントリーレベルの方が担当しステップアップをしていくのですが、そこが生成AIに置き換えられてしまうので新卒の方が影響を受けることになります。

生成AIの恩恵を受けることにより単純な判断の箇所をやらずに済むメリットもありますがそうなると難しい仕事だったり、生成AIで対応しづらいことが仕事として残ったりします。なので生成AIが入り込みやすい箇所は高い教育水準が求められかつ単純なものはコモディティ化したりAIに置き換えされたりするのでホワイトカラーになる旨みや機会が減る、一方で生成AIが入り込みづらい領域に対しては相対的に機会が増すと考えています。生成AIによって仕事の置き換えがされたあと、どの程度新しい仕事が供給されるようになるかも重要です。AIが代替して労働市場が小さくなる場合には格差が広がるとともに、仕事がないものがどのように消費し生活をするのかといった問題がでてきますし、労働者が減ることは消費者が消費することを抑えることにもつながるので準備なしに労働者を置き換えると一生懸命に生産をしても、なぜかものが売れにくい状況にもなります。AIによる自動化はできていないことや人でやっている非効率なことを簡単に達成する道具として非常に有用ですが、AIがもたらしている社会の影響に人間や社会が追い付いていないのではないかと私は考えています。この変化は進む一方ですがどうなるのかが正直わかりづらいです。ただ、逆戻りすることはないと思うので変化に合わせてAI化によるリスクがどのようにありどう対応することでリーズナブルにリスクを軽減できるのかは一定期間は定期的に確認するべきなのだと思っています(なので、正否はともかく後から見直して将来の対応を見直す目的で今の考えを可視化しています)。

将来の方向性

ここまで生成AIの歩みやエージェントAIによるパラダイムシフトと社会の変化のはじまりについて記述しました。他人事のようにメモ書きをしていますが、私もホワイトカラーの労働者なのでいずれはこのAI化の波でAI失業すると思います。退職パッケージをたっぷりもらえないだろうかと夢を見つつ見通しが立たないまま社会が変化していく状態を眺めているわけにはいきません。残念ながら私はPM系職種でありソフトウェアも趣味で楽しみつつ仕事で使っているのですが、これらはAIの土俵になり余分な人を抱え込めないのでクビ!となる流れはある程度想像がつきます。クビにならなかったとしてもAIにより仕事の速度があがり、影響力を発揮することも求められるでしょうから速く多量の成果を出せる圧倒的な速度感(量・速度)、そしてその中で重大な影響をもたらすアイデアを含めること(質)が求められることになり、加えてそれが模倣されないようなことも大事な条件となるでしょうから知能による殴り合いで血を血で流すかの如くの厳しい環境になると思います。私は残念ながら一般人であるのでAIや世界でトップレベルの知能を持つ人々に対して立ち向かう術はありません。新幹線と自転車でレースをするときに自転車側になるぐらいの厳しさだと思います。

ただ、生成AIも万能ではありません。生成AI単体ではPC内のファイルにアクセスしたり、外部のツールに影響したりできるわけではないのでMCPといった規格がでています。MCPがでたのでWebツールやデータベースを参照したり操作したりなどはできるようになってきてはいます。多少の制約がありながらもインターネットの世界では自由に動けるようになってきています。しかし、生成AIには身体や感覚があるわけではないので現実世界に直接影響したり、感情や感覚を感知したりすることにはまだまだ障壁があります。生成AIに置き換えできない箇所はまだまだしばらくの猶予があると考えています。具体的には以下のようなものを考えています。

  • 人間の感覚を用いた芸術やアクティビティ(食・エンタメ・スポーツ・観光・農業・介護・心理ケア)
  • 生成AIと現実世界の橋渡しとなるハードウェアの製作(ただし自動運転などの技術は進んでいる)
  • 国や組織の政治のような横断的で複雑な決断を責任を持ち行う
  • 伝統工芸など手作業による技術や知見・精神性

個人としてはオーディオや香水、食べ歩き、コーヒー、物作りが好きです。なので何か重大な決断をして結果を出すことよりも、料理や音響機器を作って楽しんだり、手作業でソフトウェアやハードウェアを作ったりすることができると楽しみがあると実感できそうです。そこまで人と接するのが好きなわけではないので観光や介護、心理ケアは少し自分が求めているものと違うと思います。

なので、短期的にはAIを活用したソフトウェア作りをするためにプロンプトエンジニアのような仕事の内容に取り組み、その経験を土台として生成AIと現実世界を結びつける機械作りをしていきたいです。それすらも代替されてしまう可能性もありますが、人間には楽しみも必要ですし食べないと生きていけません。食や音響機器作り(音楽)、農業のサポートなど人間の趣味や欲求に関連する活動にも取り組みたいと思っています。

まとめ

GPT-3.5の登場からAIが発展し続けて人々の暮らしを変えて変えてしまうほどにAIが普及してきていることを確認しました。同時に、日本人の義務である労働の在り方すらも変えてしまう恐れもあり、どのように生きていきたいかを思い巡らす日々となってきています。とはいえ時間は戻らないですしあるものを受け入れるしかないので変化が続く中でも夢を持って生活したいと思いました。答え合わせとやりたいことの修正はまた来年以降していきたいです。

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